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最近思うこと
          「在日米軍基地」(2024・5・30)
米軍基地のある街に住んでいながら、これまで基地について真正面から考えたことはなかった。川名晋史著「在日米軍基地」(中公新書)を読んで、この問題に如何に無知・無関心だったか、思い知らされた。以下に、要約を抜粋する。

(1) 「日本は基地を提供し、米国は日本を防衛する」は誤解
★戦後日本は、不戦を誓い、平和憲法を制定した。米国と日米安保条約を結び「日本は米国に基地を提供し、国は日本を防衛する」もの、と思っていた。これは誤解である。
★正しくは「米軍は合衆国憲法に規定された任務上、米国の財産である基地、施設及び兵員、家族を含めた米国民を保護する責任をもつ。ゆえに、在日米軍基地を守る」、という意味である。
★米軍基地を防衛することは、日本の領域の一部を保証することを意味する。他方、米軍は日本全土、わけても基地のない地域を防衛する戦略は持っていない。したがって、当然のことながら日本を直接的に防衛するための部隊もその受け皿となる基地も日本には存在しない。
★となると、基地が置かれていない地域の安全はどうなるのか、という問題が出てくる。そうした地域は米軍による直接的な防衛を過度に期待すべきではない。これら地域を含め、日本の防衛を担うのはあくまで自衛隊である。日米安保条約のイメージ…“いざという時、米軍は日本を守る”…こととは必ずしも一致しない。
★1969年、キッシンジャーは「日本に駐留するいかなる部隊も、対日防衛を主要任務としていない」と明言。1970年、ジョンソン国務次官は、議会の聴聞会で「我々は日本を直接に防衛するために日本にいるのではない。日本の周辺地域を防衛するために日本にいる」と証言した。

(2) 日本には国連軍が常駐している
★日本に国連軍の基地があることは知らなかった。米軍のように専用の基地があるわけではない、軍隊もいない、いるのは駐在武官や連絡将校、儀仗隊で、ほとんどは米軍基地に駐在している。いわば又貸しである。なぜこのようなことをしているのか。これにはからくりがある。
★米軍は日米安保条約によって行動が規制されている。日本政府の同意なしに勝手気ままに行動することは出来ない。「事前協議」制があるからだ。
★米軍としては、米軍基地を意のままに使いたい。その隙間を埋めるのが、国連軍の存在だ。国連軍は国連憲章(国連軍地位協定)によって行動する。国連軍は米、英、豪、仏、加、ニュージーランド、フィリピン、タイなどで構成されている。その中心は米軍だ。極東に不測の事態が発生すれば、日本政府の「事前協議」なしに日本に駐留する国連軍が出撃する。これが日本に国連軍が駐在している背景だ。
★米軍基地は、日本を防衛することより、北朝鮮、台湾を含む極東の危機に対する前線基地の意味合いが強い。日本の了解なしに、米軍の判断で後方支援(兵站)を含め、基地を自由に使いたい。日本は、そうはさせじと安保改定を重ね「事前協議」制度を結んだ。米軍の勝手気ままに一応の歯止めをかけた。
★国連軍の枠組みは、平時はスリーブ状態にあるが、極東に緊張が生じるか、あるいは有事においては即座に起動する。また、万が一、在日米軍基地が攻撃された場合には、国連軍が反撃を行う事態も想定されている。これらのことから、日本からみた時の在日国連軍とは、在日米軍のバックアップ・フォースそのものであり、米国とならんで日本の安全に資する重要な存在である。
★国連軍地位協定の最大のメリットは平時か有事かを問わず、参加国軍が在日米軍基地を使用できることである。国連軍地位協定以外にそれを可能にするスキームはない。日本政府は再三否定しているが、参加国は在日国連軍基地を利用して米軍と共同訓練を行っている。そうした活動は極東の安全に共通の関心をもつ彼らにとっては大きなメリットだ。
★米国単独の視点でいえば、国連軍のスキームには今もって代えがたい利点がある。第1にそれがあれば朝鮮有事ないしそれが飛び火して起こる極東での有事の際に新たな安保理決議をとる拒否権に煩わされる心配がない。第2にそれがあることで日本との「事前協議」をスキップしうる。米国自身がそう表現しているように、国連軍は日本の基地から戦闘作戦行動をとるための隠れ蓑である。朝鮮議事録(国連軍が日本から撤退する規定が定められている)は、現在も基地の自由使用を保証しうる唯一の切り札だからだ。
★政府は国民に対し明快な説明をしてこなかった。ただでさえ複雑な安保条約の法体系の上に在日国連軍と今日では日本と密接な関係にある外国軍に関する法体系が乗っている。このガラス細工のように組み上げられた法体系の全体にキズをつけないように国連軍だけを取り出して、それを国会で滑らかに説明するのは容易ではない。「藪蛇」になるよりはそっとしておきたい、と考えても不思議はない。

(3) 沖縄の3基地は国連軍(多国籍軍)の基地
★日本の周辺地域で紛争が起きた場合、その初動を担うのは沖縄の海兵隊と空軍である。嘉手納基地、普天間基地、キャンプ・シュワブ、ホワイトビーチなどがそれに対応する。
★朝鮮半島まで航空機を利用する場合、グアムからは5時間、ハワイからは11時間、米国本土からは16時間である。一方、嘉手納基地からは約2時間である。艦船ではグアムから5日、ハワイから12日、米国本土から17日を要するが、沖縄のホワイトビーチから1.5日で展開できる。
★台湾有事における救出作戦あるいは中国が宮古島、尖閣諸島などの先島諸島に上陸を試みようとする場合には、沖縄の海兵隊が自衛隊と共同行動をとる。海兵隊の各部隊(地上部隊、航空部隊、兵站部隊等)が沖縄に集結しているのは、そのことが海兵隊の統合性と即応性を担保すると考えられるからだ。
★国連軍の問題は、微妙かつ複雑であるが故に、日本政府は国内で政治問題化させないよう慎重かつ目立たない形で対応しようとしてきた。朝鮮戦争が終わり、国連軍の解体、撤退論が台頭し、財政難とも相まって、国連軍は事実上撤退を始めた。
★国連軍がいなくなると困るのは、国連憲章を盾に軍事行動が出来なくなる米軍および日本政府である。そこで編み出されたのが、軍隊ではなく駐在武官や連絡将校の駐在である。各国が持ち回りで駐在させるローテーション方式まで出現した。かくして国連軍は形式的な多国籍軍として存続することになった。これは米軍が日本政府と事前協議なしで自由に行動できるための方便である。
★しかし、近年事態は大きく変化してきている。2017年米国はカナダと連携して北朝鮮の脅威に対抗するスキームとして「国連軍」を持ち出した。「瀬取り」などの対抗を強化するため、米、豪、加、仏、ニュージーランドは、東シナ海にたびたび航空機および艦船を派遣し、警戒・監視活動を行っている。そこで使用されている基地は沖縄の在日国連軍基地である。沖縄では2018年4月から22年10月にかけて英、豪、仏、加、ニュージーランドが普天間と嘉手納を計23回使用した。
★インド太平洋地域の「面」において、米国の抑止力を担保するのが海軍の第7回艦隊である。基地は横須賀と佐世保である。横須賀は空母打撃群、佐世保は揚陸艦による遠征打撃群の母港であり、48時間以内に朝鮮半島へ緊急出動できる。
★辺野古の埋め立て工事は、普天間基地の移転が表向きの理由である。これは近年浮上したかのように報じられているが、原案は1960年代にペンタゴンで立案された。その理由は、海兵隊の統括利用である。
★沖縄の基地問題が在日国連軍の問題と絡めて論点化されたことはない。沖縄の3基地(普天間、嘉手納、ホワイトビーチ)に国連旗が立っていることは知っていても、あくまで形式的な問題だと考えられている。しかし、同3基地は施政権が返還されたその日に国連軍基地に指定されている。つまり戦後一時たりとも米軍以外の外国軍による使用が認められなかった時期はないのである。

 このように、在日米軍は米国の日本駐留部隊であると同時に在日国連軍という2つの顔を持った軍隊である。在日米軍は日米安保条約に基づいて行動するが、在日国連軍は国連軍地位協定によって行動する。
 国連軍は、国連軍基地協定により、日本国内で自由に軍用機、船舶、人員、物資を移動させかつ自由に出入りし日本の米軍基地ネットワーク、訓練区域、後方支援などを利用出来る。
 国連軍としての米軍は、日米安保条約に縛られることなく行動できる。国連軍が解体されれば、国連軍地位協定は失効し、米軍は国連軍として米軍基地を自由に使用する権利を失うことになる。これが多国籍軍(国連軍)を日本に駐留させている“キモ”である。
 米国は、在日米軍基地を世界戦略の一環として位置づけ、巧妙かつしたたかに利用、日本は憲法との整合性から曖昧、歯切れの悪い言動を余儀なくされている。
                                                  完