★女房も私もスポーツが好きです。中でもマラソンと駅伝は欠かさず見ています。来年は東京オリムピック＆パラリンピックとあって、金栗四三を主役にしたドラマ（ＮＨＫ）と新聞小説（読売夕刊）が同時に発表されました。いずれも楽しみにしていましたが、期待外れでした。ドラマは２回見ただけでやめました。新聞小説は読んでいましたが、まったく面白くありませんでした。早く終わればよいのにと毎日思っていました。
★金栗は日本マラソン界の先駆者であり、オリムピックに３度も出たヒーローです。明るく華やかなイメージを抱いていました。喩えて言えば、瀬古利彦でありＱチャンこと高橋尚子です。しかし小説に登場する金栗は、そのイメージとは正反対で、暗く、苦悩し続ける姿です。これが実像かもしれません。読者や視聴者はこういう描き方には興味を示しません。ドラマの視聴率が低迷しているのは、そこにあると思います。
★読売の朝刊には浅田次郎の「流人道中記」が連載されています。題材は違いますが、力量の差は歴然です。ストーリーに意外性があり、何んと言っても筆致が重厚です。翌日の朝刊が待ち遠しいくらい読者を飽きさせません。
★旧聞ですが、先の統一地方選で、牧島功県議候補の応援弁士として、なべおさみが駆けつけました。彼は倅（なべやかん）の大学不正入学事件（替え玉受験）で、芸能界から追放されました。もともとはコメディアンですが、作家も名乗っていたそうです。世に作家はごまんといますが、正式に作家を名乗れるのは作家協会に所属している人だけだと彼は言っていました。真偽のほどは分かりません。因みに牧島功も作家を名乗っています。
★近年、本はほとんど買いません。買うのはブックオフなどで中古本を買う程度です。もっぱら図書館を利用しています。新聞の書評欄を見て読みたい本があると、図書館に問合わせます。ない場合は購入してくれます。
★今年読んだ注目の本はナオミ・オルターマンの「ＴＨＥＰＯＷＥＲ」です。これは５千年後の世界を描いたＳＦ的未来小説です。なぜこの本が注目されたかと言えば、男女の立場が逆転し、女性が支配する社会を描いているからです。
★大統領や企業のトップ、軍の将軍など社会のリーダーは女性が主役になります。男が女に対して行ってきたレイプやセクハラなども女が主導する社会になります。
★時あたかも、トランプ大統領の女性にまつわるセクハラ疑惑が表面化し、この本はセクハラを弾劾する“＃Ｍｅｔｏｏ運動”の火付け役にもなりました。オバマ前大統領が２０１７年に読んだ「最も優れた本」のひとつだと絶賛しました。
★“スケイン”という臓器を女性の鎖骨に移植することで、女性が強力なパワーを身に着け男性を圧倒する存在になるというのが、この小説の核心です。読後感はよくありません。
★トランプ大統領の実像を暴いた「恐怖の男」も注目の１冊です。これは１月２０日の書評で紹介されました。直ちに図書館に申し込みましたが、関心のある人が多く、３冊購入したにもかかわらず、２７番目だと言われました。未だに手元に届いていません。

★物事の是非をはっきりさせることを、黒白（こくびゃく）を付けるという。これに対し物事がはっきりせず、いいかげんなさま、あいまいなさまを有耶無耶（うやむや）という。裁判はうやむやをはっきりさせる制度であるが、これとても絶対ではない。
★世の中には、「あいまい」とか「うやむや」とか「灰色決着」ということが氾濫している。卑近な例では、サウジアラビアの記者殺害事件である。ムハンマド皇太子の関与が濃厚との観測がもっぱらだが、どうやらうやむやに終わる可能性が高い。北朝鮮の金正恩の兄正男暗殺事件も同様である。
★アメリカ大統領選で、ロシアが介入したとされる「ロシア疑惑」も限りなく黒でありながら、決定的決め手がないため、灰色決着となった。トランプはそれみたことかと、うそぶいている。
★「森友、加計学園」問題も「忖度」という耳慣れない言葉を広めたうやむや事件である。
「忖度」は「阿吽の呼吸」に通じるいかにも日本的な曖昧語である。塚田副大臣が久しぶりに「忖度」を公言したが即刻首になった。うやむや系事件では珍しいスピード決着である。政権への影響をおもんばかった決断であることは言うまでもない。
★うやむやは日常茶飯の出来事である。不倫や浮気がばれても元の鞘に収まることはよくあることだ。政治家や経営者がやり玉にあがるのは、社会的影響力と話題性が高い故である。舛添要一元都知事の不祥事と元カミさんの片山さつき大臣の口利き疑惑もうやむやのまま収束した。
★昨年アマスポーツ界で不祥事が相次いだ。女子レスリングと体操のパワハラ、日大アメフットの危険タックル、ボクシング連盟会長のスキャンダルである。監督、コーチ、会長などが辞任に追い込まれた。アメフトでルール違反を起こした日大は、理事長が責任を取らず独裁体制を維持している。いずれも利権と権力が共通点。うまみのあるポストなのだろう。
★「うやむや」と「あやふや」は一見似ているが、用語辞典によれば両者には明確な違いがある。「うやむや」は意図的にごまかすという意味があるが「あやふや」にはない。「うやむや」は記憶があるにもかかわらず、覚えていないフリをしたり、敢えてはっきりさせずにおくという意味がある。「あやふや」には記憶がないから、不確かであいまいということになり、本当にはっきりしない場合に使う。どちらが悪質かは明白だ。
★首相の靖国神社参拝は、典型的なうやむや系事例である。大所高所から「玉串（たまむし）」色の対応をしている。憲法改正と沖縄問題は政権を揺るがしかねない大問題である。国論を２分し、イギリスのＥＵ離脱の二の舞いになりかねない。
★米朝、日韓、北方領土問題はうやむやに終わらせてはならない国際問題である。カルロス・ゴーン事件も日本の検察の威信に賭けて、逃げ得を許してはならない。
★とは言え、とかく人の世は「清廉潔白」とはいかないようで、「清濁併せ呑む」くらいの度量が必要のようだ。

★「歴史は勝者によってつくられる」という。「勝てば官軍負ければ賊軍」、ならず者もいい加減な者も、勝てば英雄となり、元勲となる。庶民は教科書が正しいと教え込まれ、洗脳される。何事も表と裏がある。歴史も例外ではない。歴史的経緯や因果関係が解明されずに書かれた歴史は、単なる「戦勝者の創り話し」と断じるのは「明治維新の正体」の著者、鈴木壮一氏（近代史研究家）だ。この著書には、幕末から明治維新に起きた様々な事件とそれに関わった人物がすべて登場する。
★例えば、徳川慶喜、孝明天皇、皇女和宮、島津斉彬、岩倉具視、井伊直弼、大久保利通、西郷隆盛、井伊直弼、勝海舟、山内容堂、福沢諭吉、坂本龍馬、桂小五郎、近藤勇など。外国人ではペリー、ハリス、パークス、グラバー、ベルニーなどである。事件でいえば、水戸天狗党の乱、蛤御門の変、生麦事件、薩英戦争、薩長同盟、長州征伐、鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争など。
★著者は、歴史が本来の役割を果たすには、敗者の立場も斟酌して、公平なものでなければならないと主張、その立場から「勝者によって消された歴史」を掘り起こすことで、幕末の全体像を浮かび上がらせてみたい、と本書執筆の意図を述べている。
★「勝者によって書かれた歴史」は正しい、と思いこんでいた者には、驚くべき事実が暴露されている。詳細はお読みいただくとして、いくつか事例を紹介する。

１．徳川慶喜は賢者か愚者か
　最後の将軍慶喜は、水戸藩第９代藩主徳川斉昭の７男として天保８年（１８３７）に生まれた。幼少期から英邁として注目された。首席老中阿部正弘もその才能を見抜き、将軍宗家の後継候補と考え、一橋家の世嗣になった。
　水戸藩は水戸学発祥の地である。水戸学とは政治思想の学問である。第２代藩主光圀（水戸黄門）は、日本の秩序を保つには将軍の上に天皇を戴き、私的権力に過ぎない徳川幕府の恣意的な権力の行使を戒めた。これが尊王攘夷である。攘夷とは夷狄（異民族）を打ち払うことである。光圀は、外敵の侵略に備えるという海防論として使った。尊王攘夷思想は、尊王倒幕などの過激な思想になり、幕末に多大な影響を与えた。
　斉昭は光圀の水戸学を踏襲した上で、欧米列強の外圧に晒され始めた日本国が独立を保つには、外様大名も政権運営に参加させ、全国諸藩が一致団結して国難に立ち向かうしかないと考え、阿部正弘にこの考えを伝えた。斉昭、阿部と思想を共有した最後の将軍徳川慶喜は、将軍として朝廷を説得、わが国にイギリス型議会制度を導入することを目的に、大政奉還に踏み切った。慶喜はフランス型陸軍を創設し、軍隊の近代化にも取り組んだ。
　明治４１年、慶喜は大政奉還の功績により、明治天皇から勲一等旭日大綬章を授与された。このことこそ「徳川慶喜が大政奉還を行ったから、明治維新が成就した」という何よりの証だ、と著者は述べている。慶喜は、世間でいわれるような優柔不断でも日和見主義でもない。幕末における最高のステーツマンである、あまりに至高なステーツマン故に、多くの評論家は慶喜の一部分だけを見て全体像を見たとの錯覚に陥っている、と指摘している。

２．坂本龍馬はヒーローか
　坂本龍馬は開明的、志の高い、悲劇のヒーローとしてのイメージが定着している。彼は倒幕の原動力になった薩長同盟を成立させ、「船中八策」を起草、大政奉還を唱え、その実現に尽力した幕末の立役者の一人である。ところが、その実像は現実家で、したたかな密輸ブローカーだった。
　龍馬は２８歳の時、土佐藩を脱藩、開国論者の勝海舟の弟子になった。勝の提案で開設された幕府の「神戸海軍操練所」の塾頭になり、土佐出身者を集め、操船技術を習得した。その仲間と操船技術を生かし、死の商人グラバーと組んで、薩摩藩名義で武器を調達、それを長州藩に転売、やがて薩長同盟となり、倒幕の原動力になった。イギリス出身のグラバーは１８歳の時上海に渡り、２１歳で長崎に来た。のちグラバー商会を立ち上げ、長崎最大の外国商社になった。
　倒幕派の長州藩は、上海ルートで多量の小銃、弾丸、火薬類を薩摩藩経由で密輸入し、幕府との戦争に備えていた。慶応元年の密輸金額は４万６千両という膨大な額だった。購入した武器類は上海、下関の直行ルートや、上海、長崎、下関の三角ルートで運ばれ、船舶がひっきりなしに往復していた。密貿易は莫大な利益が伴う。外国商人は危険をおかして下関に集まってきた。
　４年に及んだアメリカの南北戦争が終結し、余った最新鋭の小銃類が上海に大量に出回った。それに目を付けたのがグラバーである。しかし、いくら辣腕のグラバーでも、幕府が厳しく目を光らせている密輸品を簡単に扱うことは出来ない。そこに仲介者として登場したのが龍馬である。
　龍馬とその仲間は、ぬけぬけと大坂薩摩藩邸に乗り込み、慶応元年４月、薩摩藩汽船胡蝶丸で小松帯刀、西郷隆盛に同行して鹿児島に渡った。同年５月、亀山社中を結成、薩摩藩の出入り業者になった。さらに翌年、龍馬は下関で長州藩の桂小五郎と会見、薩摩藩と長州藩の提携話を持ちだした。これが薩長同盟の始まりである。

３．欧米列強の対日政策
　幕末は尊王攘夷、大政奉還論が吹き荒れ、天誅、暗殺、戦闘が頻発、お上の威光が失墜、無政府状態となり、やりたい放題に陥った。植民地化を目指す欧米列強は、この混乱に乗じ、開国を迫り、自国有利な権益を獲得しようと、硬軟様々な外交攻勢を仕掛けてきた。
　イギリスが清国問題に関わっている間に、アメリカはペリー艦隊を送り込み、ロシア、オランダに先駆け日米和親条約を結んでしまった。ペリー提督は米墨戦争でカリフォルニアを奪い取った猛将である。幕府に「開国しないなら攻撃する」と脅迫した。イギリスは、アヘンに代え小銃を薩長連合に売込み、倒幕を裏から支援した。
　ロシアは、ペリーの威圧的態度に強く反発、紳士的な交渉を行った。千島列島の国境確定、開港、貿易開始、犯罪人処分などの「日露和親条約」の草案をつくった。幕府内には「日本はロシアと軍事同盟を締結し、無礼なアメリカと対決しよう」と主張する者までいた。
　フランス公使ロッシュは、幕府首脳陣に「アヘン戦争が示しているように、イギリスは工業製品の市場を拡大するためには他国を侵略して顧みない。これにひきかえフランスは、芸術・科学もそうであるように、軍事上でも偉大な正義を愛する国である」と公言した。
　日本の危機を救ったのは、水戸学であり、徳川慶喜だったというのが、著者の主張である。

★今年、わが国は令和の御代を迎えた。新天皇は国民の期待を担い、伝統の儀式を、威厳をたたえたお姿で滞りなくこなされた。雅子皇后は適応障害を克服され、輝きと美しさ、自信を取り戻した。令和の御代は安寧の時代に向け第一歩を踏み出した。
★大勲位が天寿を全うして他界した。中曽根元首相は、風見鶏、目立ちたがり屋と揶揄されたが、明確な国家ビジョンを持っていた。「戦後政治の総決算」を掲げ、日本を世界に完たる国に押し上げた。私は中曽根さんが歴代ＮＯ．１の首相だと思っている。
★片や安倍首相である。歴代最長の在任記録を更新した。「長きが故に尊からず」、「実績有るを以って貴しとなす」。アベノミクスは未だに成果が出ていない。マイナス金利は今もってマイナスのままだ。２０２０年までにプライマリーバランスを黒字化する公約も先送りした。大臣２人を電光石火解任し、「桜を見る会」の名簿もあっという間にシュレッダーした。この素早さは何とも胡散臭い。安倍さんがレガシィを残すには、もはや憲法改正しかない。
★世界はカオスに陥った。その元凶はトランプだ。彼を辞めさせることが、混沌から抜け出す唯一の方策だ。米議会は弾劾を可決し、彼を辞任に追い込もうとしている。しかし、これは不発に終わるだろう。彼は世界中から嫌われている。にもかかわらず、再選が濃厚だ。われわれはさらに４年、彼の勝手気ままな言動に付き合わされそうだ。
★韓国の文大統領も“わからんちん”では、トランプと双璧だ。スキャンダルが次々に出てきた。より深刻なのは経済だ。国家破綻の危機に直面している。２０年前にＩＭＦの管轄下に入ったが、その再来かとささやかれている。すでにレームダック化しているが、途中辞任もありえそう。北朝鮮はイライラを募らせている。ＩＣＢＭを太平洋にぶち込むかもしれない。朝鮮半島は不穏な空気が漂ってきた。日中は友好関係が修復し、来春には習近平国家主席を国賓に招く。善隣友好に異論はない。ただし、中国の本質を見誤らないことが肝要だ。覇権主義に揺るぎはない。雨傘革命は成就するか。
★日本人は古から外来文化を取り入れ、独自の文化に昇華させてきた。代表格は日本語だ。漢字、ひらがな、カタカナがある。漢字を忘れてもかなで代用出来る。ローマ字もある。和製英語もある。近頃は絵文字までも仲間入りした。ＯＥＣＤの学力調査によれば、日本の若者の読解力が低下したという。まともな文章が書けない。本を読まない。スマホ、ＳＮＳの影響という。これは困った現象だ。
★近年大型台風や大雨による災害が頻発するようになった。温暖化による異常気象が原因だ。ＣＯＰ２５では各国の真剣な取り組みを促しているが、先進国の受け止め方は今一だ。日本は米国と共に「化石大賞」を受賞した。これは地球温暖化問題に消極的な国に与えられる不名誉な賞だ。スウェーデンの高校生グレタさんが世界の指導者に懸命な訴えをしている。進次郎環境大臣はこの問題にどう取り組み、どう発信するか、真価が問われる場面である。
★令和は万葉集の「初春令月気淑風和」（初春の令月にして、気よく風和らぎ）からの引用、と考案者の中西進先生は述べている。安倍首相は「希望に満ち溢れた時代を国民と一緒に切り開いていく」と説明した。来年は内外共に雲行きがあやしい。よい年になるよう期待しょう。

「混迷、英ＥＵ離脱」（2019・3・16)
★世界的に政治の混乱と経済の停滞感が広がっている。米朝会談が決裂、非核化が遠のいた。日韓関係が悪化した。非は韓国にある。断交やむなしと思っていたら、文芸春秋が「日韓断交」の特集記事を載せた。英国のEU離脱はますます混迷の度を深めた。中国は経済の減速が鮮明になった。 ★今年は世界中でリスクと不確実性が進む兆しが濃厚である。リーダーの資質と指導力が問われる年になりそうだ。 ★中国はGDPの目標値を６～６．５％に引き下げた。それでも極めて高い。専門家はこの数値はごまかしだという。実体を正確に反映したものではなく、せいぜい半分か０％、中にはマイナスと言う専門家さえいる。　それはさておき、実体経済の低迷は間違いない。車やスマホ、マンションの普及率が天井を打ち、売れ行きが鈍化した。政府は消費の落ち込みを公共投資でカバーする。軍事費は７．５％とGDPより高い。日本の約４倍という巨費である。 ★わが国はアベノミクス効果で、戦後最長の好景気だと言う。二階幹事長は“余人に代え難い”と安倍４選を言い出した。ほんまかいな、と本気にする人はいない。日本の統計も中国に似て来た。春闘は前年割れで決着。労使の感覚は実体を反映している。 ★ホンダが英国からの撤退を決めた。日産、トヨタも人員削減を発表した。ＥＵ離脱で価格競争力が失しなわれるためだ。 ★英国のＥＵ離脱問題は日本人には分かりづらい。この問題について、３月３日読売朝刊の「地球を読む」に、慶大教授細谷雄一氏の論文が掲載された。説得力があるので要点を引用する。 ★教授は、共に女性宰相であるサッチャー元首相とメイ首相を対比させ、この問題を論じている。サッチャーは鉄の女と呼ばれ、政治信条が明確で対決型の政治家だった。「揺りかごから墓場まで」といわれた英国の福祉国家構想を葬り去り、自由競争を正義と考え、市場を万能と見なした。「市場の伝道師」として、国民に起業家精神と自己信頼の価値を回復させようと固く決意した。 ★自由競争を阻害する国境間の障壁を可能な限り除去するとの信念から、欧州共同体（ＥＵの前身）に加わり市場統合を積極的に進めた。これは市場の開放、関税障壁の除去、西欧同盟の結束を目指すものだった。経済では自由主義を徹底しながら、国家主権を絶対視することがサッチャーイズムである。この結果起きた現象は、過度の貧富の格差と国民の亀裂だった。 ★メイ首相は、政策面で妥協も躊躇しない実務家肌の政治家である。彼女は内相の頃、残留派だった。国民投票の結果を受け、ＥＵ離脱派に転じた。サッチャーの負の遺産（格差拡大と国民の亀裂）を解決するには離脱しかないというのが、メイ首相の考えである。彼女の主張に説得力がないのは、サッチャーのような政治哲学がないからというのが、細谷教授の見立てである。 ★離脱派の主張は大英帝国の復活である。ＥＵから離脱しても、独立国家として世界に伍していける、ＥＵの束縛から脱することで、貧富の格差は解消できる、というものだ。これは大いなる幻想である。メイ氏はメイロ（迷路）から抜け出せるか、果たして結末やいかに。

幻の領土問題（2019・1・6）　　No.1
★安倍首相は在任中に北方領土問題を解決し、歴史に名を残すことに意欲を滲ませている。この問題は歴史的経緯や国際法上の解釈、国民感情などが絡まり、一筋縄ではいかない。 ★古来、領土は戦争によってしか解決出来なかった。１ｍｍたりとも渡さないというのが、国の大小を問わず国家元首の考えである。身近な例では尖閣諸島、竹島がある。小笠原諸島と沖縄が、戦わずして返還されたのは異例のことである。 ★北方領土問題はさておき、シンガポールの領土問題にからむ秘話を紹介する。これは公表された話ではない。４０年前、私が政府高官から個人的に聞いた裏話である。 ★シンガポールの国土は淡路島と同じ面積しかない。水も自給出来ないため、マレーシアから輸入している。国土を広げ、水の自給体制を築くことが、国の重要課題である。 ★国土を広げる対策として、海岸線の埋め立てを進めている。１９６０年に５８０ｋ㎡だった面積が２０１７年には７２１ｋ㎡に広がった。水は海水の淡水化や最先端のリサイクル技術を駆使した下水処理プラントによる再生水「ニューウオーター」の増産に取り組んでいる。しかし、これらは抜本的な解決策にはならない。 ★政府が秘かに画策したのは、シンガポールの目と鼻の先にあるバタム島とビンタン島の買収である。両島ともインドネシア領である。バタム島はフェリーで４０分足らずの距離にある。 ★バタム島の面積はシンガポールの３分の２、ビンタン島はシンガポールの約２倍。この両島が手に

2019年投稿一覧
投稿日	タイトル
12月08日	令和の御代の幕開け
9月17日	明治維新の正体
6月15日	作家の力量
4月26日	「うやむや」と「あやふや」
3月16日	混迷、英EU離脱
1月06日	幻の領土問題