★横須賀に病院が多いのは軍港だったからだ。これは呉、佐世保、舞鶴、長崎も同様である。横須賀には大病院が４つある。①横須賀共済病院、②市立うわまち病院、③聖ヨゼフ病院、④旧海軍病院（現アメリカ横須賀海軍病院）である。
★聖ヨゼフ病院は、昭和14年3月横須賀海仁会病院として創設され、海軍軍人およびその家族の診療を開始した。海仁会は海軍下士官のための施設を運営していた。将官クラスの組織には水交社があり、その病院は旧横須賀鎮守府内にあった。1916年、当時の横須賀海軍病院は、東洋一の規模と、最高の設備で１１００床あった。建物は建替え移転したが、現在は米海軍基地内のアメリカ海軍病院になっている。
★私の妹が2歳の頃、原因不明の難病に罹った。疎開先（千葉県東金）の病院では原因が分からず、海軍下士官だった父が海軍省に請願して、横須賀海軍病院（聖ヨゼフ病院）に入院することが出来た。病名は膿胸だった。この病院のお蔭で一命を取り留めた。この病院は軍港とガントリークレーンを眼下に一望出来る高台に建っている。妹が入院中、ある軍艦の進水式があった。病院の職員が病室に回ってきて、窓際のカーテンを閉めるよういわれた。決して窓から覗かないようにとの注意があった。私が小学1年生の頃だった。子どもの好奇心から、カーテンに顔を突っ込みドックの様子を見た。大きな軍艦が進水するところだった。後年、調べてみたら「空母信濃」だった。
★市立うわまち病院の源流は、横須賀衛戍(えいじゅ)病院である。衛戍とは明治期に陸軍の軍隊が配備駐屯することを指した。そこを衛戍地と称し、衛戍監獄、衛戍司令部などとして使った。不入斗(いりやまず)に陸軍の駐屯地と練兵場があり陸軍病院があった。戦後、要塞司令部があった現在地に移り、のち国立横須賀病院になった。うわまち病院は、背面を崖に囲まれ狭隘な土地に建っている。このため拡張が出来ない。加えて県道から病院に入る道路が狭く、救急車や車両の進入に問題がある。これらの理由から、昨年久里浜への移転が決まった。こんな不便な土地に建てたのは、敵の侵入を防ぐためといわれている。
★横須賀共済病院は、１９０６年3月、横須賀海軍工廠職工共済会医院として、横須賀造船所や横須賀工廠に働く人達のために作られた。戦後、横須賀共済病院に改称した。工廠とは海軍直営の工場のことで、横須賀工廠では艦船、航空機、各種兵器、弾薬などの開発、製造をしていた。横須賀に共済病院がいくつもあるのは、工場で火薬を扱ったり、突貫工事などで事故や怪我が多かったからだろう。私は長い間、ここも海軍病院だと思っていた。
★今は廃院になったが、京急田浦駅の近くに北部共済病院があった。1888年、船越新田と呼ばれた場所に、横須賀造船所が兵器製造工場を開設した。水雷や機銃などを製造し、1903年海軍工廠造兵部になった。そこで働く職員のために14年12月、横須賀海軍工廠長浦職工共済病院として誕生した。
★第４代アメリカ横須賀海軍基地司令官に就任したベントン・ウイーバー・デッカーは、1946年4月から50年6月までの4年間駐在し、戦後の横須賀占領政策を推進、ソフト路線で街を混乱させずに発展させた。彼は敬虔なクリスチャンである。キリスト教の博愛精神に基づき、横須賀の民主化に貢献した。聖ヨゼフ病院や衣笠病院は、ベッカーの意向で、キリスト教会系の病院になった。教育にも力を注ぎ、1947年5月、田浦にあった旧日本海軍水雷学校の跡地に栄光学園を開校、1950年1月には横須賀学院を開校した。いずれもミッションスクールである。
★軍の病院には大きな特徴がある。患者が将兵であることから、外科と内科が中心で産婦人科や小児科はない。もうひとつの大きな特徴は神経科があることだ。戦争神経症とも呼ばれ、統合失調症やPTSD（心的外傷後ストレス障害）を病む将兵が多かったためである。アメリカ海軍病院では女性の看護師はいない。これらは軍隊の特質を考えればうなずけるところである。
★横須賀の中心地から離れた長坂に、自衛隊の海・陸・空の武山駐屯地がある。そこに隣接して1963年12月、横須賀市立武山病院が開院し、2011年4月に横須賀市立市民病院となった。病床数は４８２床ある。横須賀市というよりは三浦市に近い。三浦市は人口減少が著しく消滅可能性都市である。市民病院の収支は安定している。自衛隊の寄与が大きいようだ。この病院の成り立ちも戦前の軍用施設である。
★戦前、武蔵小杉周辺には通信機や計器など軍事用部品を供給する工場が多数あった。それらを横須賀に送るため、貨物線を整備して横須賀線が建設され、軍事上の重要路線となった。1945年4月、それらの工場を狙った川崎大空襲で大きな被害を被った。1952年、その武蔵小杉に関東労災病院の設置が決まり、57年6月に内科・外科・整形外科・放射線科100床で創立され、60年に５０１床、72年に606床、１６診療科の病院になった。土地所有者は京浜急行電鉄だった。
★湘南病院は京急追浜駅前にある総合病院だが、精神科病棟が充実しているのが特徴だ。創立は1946年4月である。戦争中はここに海軍の宿舎があった。精神科病棟は、人里離れた場所にあるのが普通で、駅の真ん前にある精神科病棟は、松沢病院以外聞いたことがないという。追浜の先には夏島・野島があり、戦時中は横須賀海軍航空隊の基地があった。夏島は縄文式貝塚として知られている。湘南病院の精神神経科病棟は１２０床あり、鍵がかかる閉鎖病棟と鍵がかからない開放病棟の2つを併設している。精神科デイケアも併設して社会復帰にも力を入れ、1日平均130人の患者が来ているという。患者や地域の医師にとって、このような病院があることは大変恵まれている。精神病患者もガンや白血病、脳腫瘍、骨折、糖尿病などあらゆる病気にかかる。精神状態が安定していれば問題ないが、ちょっとおかしなことをいうと一般病院では敬遠される傾向がある。
★野比の国立病院機構久里浜医療センターは、1941年6月、横須賀海軍野比分院として開院し、42年に野比海軍病院になった。45年12月に国立久里浜病院になり、63年7月、国立医療機関として初のアルコール専門病棟を作った。2012年4月に現在の名称になった。アルコール依存症や心神喪失症の患者を治療している。玄関は電気錠による2重構造、警備員が２４H体制で配置されている。病室はすべて個室。強度の鬱病に罹った知人を見舞ったことがあるが、病院というよりは収容所に近い。ユニークな診療施設である。
　以上、「三浦半島の医療史」から、主要な病院の生い立ちを紹介した。

★アメリカの新型コロナの死者は1１万人を超え、ダントツの世界一である。トランプは汚名返上に向け、国を挙げて取り組んでいる、と思いきや、その様子は見られない。それどころか、ウイルスをばらまいたのは、武漢細菌研究所だと断定、中国に賠償を求めると息巻いている。それを阻止しなかったWHOも同罪だと決めつけ、WHOからの脱退を決めた。
★中国は、アメリカの言い分は根拠のない言いがかりと反論、コロナを封じ込めたのは、習主席の偉大な指導力の成果だ、と高らかに宣言した。全人代は、“トランプ再選なし”と分析、対米強硬路線の維持を決定、一帯一路戦略を推進することを明確にした。しかし、コロナ禍でサプライチェーンが寸断された製造業は、中国１極集中から分散化へと舵を切り始めた。中国の経済的打撃は避けられない。加えて香港問題が新たな火種となり、中国の強硬路線に反発が広がり始めた。
★トランプの言動は、支離滅裂の度を深めている。大統領選支持率がバイデンに抜かれたことで、動揺に拍車がかかった。警官による黒人殺人事件の対応にも世界中から批判が高まっている。暴動を恐れ地下壕に逃げ込んだのは、トランプの致命的失敗だった。オバマ前大統領や身内のマティス前国防長官も公然と批判を強めた。パウエル前国務長官はトランプ再選を支持しないと公言した。G7も延期を余儀なくされ、世界もトランプを見放した。トランプ再選はアラートからアウトが濃厚になった。
★安倍政権にもアラートがともった。内閣支持率が軒並み下落、危険水域に入った。国民の感覚は鋭い。モリカケに始まり、桜を見る会、河井支援、コロナの不手際、検察人事のまやかしなど、よく見ている。会期末を迎え、新たに補正予算の問題が浮上してきた。これは命取りになる可能性がある。
★分からないのは株式市場だ。政権が揺らぎ、あらゆる経済指標が悪化している。にもかかわらず、株価は上昇、早々とV字回復を果たした。株価は景気の先行指標というが、６ヶ月先に経済が好転する材料は見当たらない。世銀は戦後最悪の不況になると発表した。トランプや安倍首相の退陣が、急落の引き金になるかもしれない。
★喫緊の課題はコロナの正体を見つけ、ワクチンと治療薬を開発することだ。これはメドが立っていない。国民が取る自衛策は依然として「３密」だ。これは忍耐を要する。長期間続けることはムリだ。得体のしれないコロナに対し、野ネズミや野生コウモリに始まり、宇宙から飛来したなど様々な説が飛び交っている。
★人類学者の山際寿一は、地球は「ウイルスの惑星」であり「細菌の惑星」だという。温暖化対策を軽んじてきた人類は、氷山や深海に潜んでいた未知の細菌やウイルスの出現を許すことになったと指摘。今回のウイルスを退治出来たとしても、環境破壊に歯止めをかける行動を取らない限り、また新たなウイルスに襲われるだろうと警告する。これは説得力ある見解である。人類は自然に対し、謙虚さを取り戻し、かけがえのない地球の保全に取り組むべきだ。もし新型コロナが神の怒りなら、人類はこぞって神前にひれ伏し、許しを請わなければならない。そこまで飛躍しなくても、それに近い学説を述べる学者がいる。
★アベノマスクは４５０億円を投じたが、不良品が多発し、再検費用に8億円を掛けた。作り直した費用を含めると、５００億円を優に超える費用が発生している。これだけの費用にもかかわらず、国民の評価は悪い。いらないという人が多いことから、ある市長は寄付してほしいと呼び掛けた。サイズが小さいので、児童に配りたいという。本気か皮肉かは分からない。
★新型コロナは大きな山を越え、世の中はコロナ後に関心が移ってきた。しかし原因は未だ解明されず、ワクチンも治療薬もないのが現実である。対策は依然として３密防止のみである。

★政権末期に求心力を失うことをレイムダックという。「役立たず」「死に体」の意で、政治的影響力を失った政治家を指す政治用語。語源は１７００年代ロンドン証券取引所で支払不能に陥った仲買人を指す言葉として用いられたのが始まりとのこと。その後、１８６０年代にアメリカの政治用語して使われだした。なんとも古い、歴史のある用語である。わが国でいつ頃から使われだしたかは定かでない。それほど古くはないように思う。
★巷間、韓国の文大統領、アメリカのトランプ大統領、わが安倍首相がレイムダック化したと言われている。トップに昇りつめた政治家は、後世に残る業績を作りたいと考える。レガシー（政治的遺産）である。
★トランプの再選は厳しい情勢だが、まだ予断は許さない。岩盤基盤と称する４０％のトランプ熱烈支援者がいる。対抗馬のバイデンは政治経験豊富だが、高齢の上、カリスマ性に欠ける。体調不安説もある。これがトランプを諦めさせない背景だ。トランプが敗れるとすれば、彼のレガシーは何だろう。それはアメリカ第１主義という妄想の元に、世界の秩序を乱した軽薄大統領という汚名だろう。現代版鎖国主義だ。最大の実績はコロナの感染者と死者数が世界一を記録したことだろう。これはギネスブックものだ。
★文大統領は、悲願の南北朝鮮の統一をレガシーに、あわよくばノーベル平和賞受賞を目論んだ。しかし、金正恩とトランプにコケにされ、この目論見は幻になった。歴代韓国大統領は、政権末期に日本たたきをするのが常套手段だ。文大統領もＷＴＯ提訴、慰安婦問題など強硬姿勢を貫いている。最後っ屁が日本たたきになるのは、ご免こうむりたい。
★安倍さんは、首相在職日数歴代第１位の記録を樹立し、安倍１強と言われ、党則を変えてでも４選を目指すと党本部は息巻いていた。それがわずか１年足らずで、支持率が急落し、レイムダック化した。最大の原因はコロナ対策のミスだ。健康不安説まで浮上し、退陣は既定の路線となった。安倍さんは憲法改正、北方４島返還、拉致被害者の帰国実現を公約に掲げた。いずれも未達に終わるだろう。唯一国民の記憶に残るとすれば、アベノマスクかもしれない。
★ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席がレイムダック化しないのは、共産主義国家だからだろう。わが国には「驕る平家は久しからず」の譬えがある。果たして、バッシングを封じ込め、両皇帝が終身皇帝の地位を保てるのか。トランプ、安倍退陣後の世界は両皇帝の独壇場になるのか。それとも新しいヒーローが現れるのか、コロナ後の世界情勢は目が離せない。

★新型コロナで始まった令和２年は、収束はおろか、むしろ拡大と拡散を広げつつ、新年へと持ち越す事態になった。コロナ禍でよかったことなどあり得ないが、強いて挙げれば、一律１０万円の給付とトランプの退陣、それに巣ごもりで読書量が増えたことだろう。今年読んだ中で、ベストスリーは「明智光秀・秀満」、「青山二郎」、「大名倒産」である。
★「明智光秀・秀満」（小和田哲男著）は、謀反人・主殺しのイメージが強い光秀の実像を掘り起こし、評価の見直しを迫った著作である。「歴史は勝者によって作られる」、この最たる例が光秀だと著者は言う。本書はその歪みを質すのが目的である。この作品はＮＨＫの大河ドラマ「麒麟がくる」の原作になった。光秀だけでなく、悪人・反逆者などの汚名を着せられた小栗上野介（「明治維新の敗者たち」）や徳川慶喜（「明治維新の正体」）などの復権が行われたのも今年の出版界の特徴である。
★「青山二郎」（田野勲著）は、青山二郎（１９０１～１９７９）という破天荒な人物の評伝である。二郎は古陶磁鑑賞家、装幀家、文筆家、写真家、画家などいくつもの顔を持つ。多趣・多芸の才人である。彼はそれらを「余技」と称し、生涯定職を持たなかった。こんな人物が本当にいたのか、と思わせる豪放磊落、自由奔放、思うがままに生きた人物である。資産家の次男として東京に生まれ、１０代から毎月小遣い５００円（現在の１２５万円）を貰い、骨董を買い漁り、飲む打つ買うの放蕩に耽った。多くの著名人と交わり、多くの弟子を育てた。例えば、柳宗悦との民芸運動、北大路魯山人との出会い、横河コレクションの編纂。「青山学院」の校長として教授の小林秀雄と共に、河上徹太郎、中原中也、白洲正子などを厳しくしごき大成させた。教育・遊蕩費はすべて二郎が負担した。奥さんは舞踏家の武原はん。中学生（旧制）の頃、京橋界隈の骨董店に入り浸り、古陶磁器を買いまくり、１６歳の時、宋時代の逸品（水盤）を発見、若き目利きの鑑賞家との評価を得た。破天荒な生き方から「畸人（奇人）」と称された。
★「大名倒産」（浅田次郎著）は、江戸時代の某大名に焦点を当てた物語である。徳川２６０年の御世は天下泰平の時代であった。関ケ原の戦いに馳せ参じ、家康の勝利に貢献した武将は、その功績により大名・旗本・御家人に抜擢され、代々世襲によって地位、家門、しきたりを守ってきた。これらの伝統は、いざ合戦に備え「常在戦場」怠たらないためである。しかし、２６０年もの長きに亘り戦のない泰平の世が続き、当主は世襲によって戦争を知らない子孫の代になった。参勤交代や格式を守るための出費は膨らみ、御禄を半知（俸給半減）にしても藩の台所は火の車、家政は慢性的破綻の状態に陥った。豪商から借りた２５万両の負債を踏み倒す以外に解決策はなくなった。ここで「倒産」という妙案を考えたさる大名家の殿様が、それに向けての策謀を巡らす物語である。
★これは一見、現代にも通じる深刻な経済問題であるが、著者の語り口は軽妙・洒脱・痛快である。上下２巻の大冊なれど、一気呵成に読了能わざる活劇譚である。書名はあたかも講談の演題、目下売り出し中の神田伯山に語らせたら評判になること請け合いである。コロナ禍で鬱々たる世の中であるが、この１冊を憂さ晴らしにお読みあれ。

★戦後日本の首相は経済成長と国際社会での地位向上を目指してきた。安倍前首相もアベノミクスとトランプ大統領との強い絆を築いて、この路線を継承してきた。これはつめて言えば、「行け行けドンドン」政策である。
★企業のトップは、常に成長を求め、業績悪化は経営能力の欠如と考える。このため後退は許されず、実力以上の高い目標を掲げ、従業員にムリを強いる。組織体制も整わないまま、「行け行けドンドン」で突っ走る。やみくもに走ってくると、体力的にも制度的にも疲労が蓄積される。この結果、納期遅れや不良品の多発、長時間労働や能力の限界やで退職者が続出し、悪循環に陥る。企業の「金属疲労」である。
★数百段ある石段を、一気に登りきることは出来ない。途中に必ず「踊り場」がある。ここでひと息ついて、呼吸を整え再び登り始める。企業も同じで、休みなしに一気に頂上に行こうとすると息絶え絶えになって失速してしまう。一見足踏みをするようだが、踊り場で一呼吸し、問題点を整理し、改革を断行した方が、活力が回復して、次のステップに向かうことが出来る。これは「言うは易く行うは難し」で、経営者にとっては勇気のいることである。
★安倍後継として菅内閣が発足した。新内閣が何を目指すのかまだ全体像がはっきりしない。安倍さんの派手なパフォーマンスに比べ、菅さんは「自助」「共助」「公助」を指針に掲げた。この「３助」は町内会長かせいぜい市長レベルの指針で、国の最高責任者が掲げる指針ではない。菅さんの地味で控え目な人柄が出ている。
★菅さんが繋ぎ役なのか、本格政権を目指しているのかは、今の段階では分からない。私は、菅さんは「踊り場内閣」に徹しようとしているのではないかと思っている。菅さんは長い間官房長官をやってきた。この経験から政府の機能や官僚組織の問題点を熟知している。その経験・知識を踏まえ、「行け行けドンドン」をひとまず置いて、成長路線で生じた歪を解決し、次の成長に向けた足場作りに注力しようとしているのではないだろうか。
★河野太郎さんや平井卓也さんを要職に就けたのは、菅さんの意図を明確に示した人事だろう。行革は難題が待ち構えている。河野大臣が持ち前の突破力で成果を挙げれば、次期総理の本命に浮上する。失敗すれば河野さんの目はなくなる。平井さんはデジタル化の推進役と期待されている。当面の課題はマイナンバーカードの活性化である。しかし、世界のデジタル化ははるか先に進んでいる。そこまで追いつけるのか、平井さんの手腕が問われる。
★当面の課題は新型コロナの収束である。この担当に田村慶久さんを据えた。田村大臣は党内切っての厚生通という。この人事も菅さんの思いが込められている。この３人が菅内閣の目玉人事だろう。彼等が力量を発揮し、菅さんの思い描く成果を挙げれば、菅さんの再選が見えてくる。
★平井さんはデジタル法案を来年の国会に提出すると言っている。これを踏まえれば年内解散はないだろう。任期満了解散の可能性が高い。菅さんの外交方針は分かりづらい。近々、台湾の蔡総統と電話会談するという。これが事実とすれば、反中国に踏み切ったことになる。

★ハンコ（印鑑）をなくすかどうかが話題になっている。小生は役所や会社でハンコをなくすことには賛成だ。ハンコの起源は中国と思いきや紀元前のメソポタミアだった。「旧約聖書」にもハンコにまつわる記述が複数書かれているそうだ。それ故に西はギリシャ、エジプト、ローマを経てヨーロッパ諸国に広がった。もかかわらず、欧州にはハンコを押す制度も習慣もない。
★他方東はシルクロードを経てアジアに伝播し、中国から日本に伝来した。日本で最古のハンコは２３０年前に北九州で発見された「漢倭奴国王」と刻まれた金印である。これは２０００前、漢の光武帝から贈られたものとのこと。
★ハンコは貴重品だったので、古くは王侯貴族や権力者のステイタス・シンボルだった。日本では平安・鎌倉時代になって私印としてハンコを押す習慣が定着した。明治になって「印鑑登録制度」が法律で定められ、それが今日まで続いている。
★世界的に見ると、１５世紀にハンコからサインに変わった。ハンコを用いる国は中国や台湾、韓国などごく一部に限られている。中でも日本は名実ともにハンコ社会だ。中国は公印や法人印はあるが、印鑑登録制度はない。一般の人がハンコを使う機会はほとんどない。台湾には印鑑登録制度があり、法人印と代表者印は角印である。韓国は印鑑登録制度を段階的に廃止した。台湾、韓国に印鑑制度と押印の習慣があるのは、日本の統治下にあった名残りである・
★中国系のシンガポールではハンコは使われていない。ハンコの代わりにサインである。これは国家の仕組みがイギリスをモデルにしているからである。小生も独自のサインを考案した。公の文書（政府への申請書、決算書、銀行口座、小切手、パスポート、輸出証明書など）はサインである。ハンコがなくても何ら支障がないことは体験済みだ。
★ハンコがなくなると困るのは、ハンコ屋さんだ。印章業界の規模は、売上げ３０００億円で店舗は１万軒とのこと。脱ハンコ時代が到来するとハンコだけで生計を立てるのは厳しい。同情は禁じ得ないが、これも時代の流れだ。業種変換するしかない。
★効率や合理性を重んじる役所や会社でハンコを減らすことに異論はない。かと言って、すべてのハンコをなくすのは行き過ぎだ。ハンコには連綿と続いてきた歴史と文化がある。篆刻などは後世に残すべきすぐれた伝統的芸術文化である。これはぜひ残してもらいたい。
★国事に関わる国際条約の批准や国会の詔書、法律の制定、大使の信任状、叙勲などには国璽と御璽は不可欠である。欧米でも国際的な条約には国王印や大統領印などが使われている。卒業証書や表彰状、感謝状も押印があった方が、重みがある。残すべきものは残すべきだ。

2020年後半投稿一覧
投稿日	タイトル
12月27日	今年の3冊
10月16日	脱ハンコ
9月19日	菅“踊り場”内閣
8月21日	レイムダックとレガシー
７月08日	軍港横須賀の医療史
6月09日	トランプアウト