★スターリン、ヒトラー、毛沢東は２０世紀の三大悪人と呼ばれている。中でも毛沢東は、最悪の独裁者と評される。この３人に共通しているのは、自分の主義・主張を実現するために、多くの人を虐殺した残忍な暴君だったことだ。
★スターリンとヒトラーは過去の人になったが、毛沢東は中華人民共和国の“建国の父”として、天安門広場に肖像が掲げられ、紙幣にも印刷され、現在も生き続けている。毛沢東に対する評価は大悪人から英雄まで極端に振れている。
★毛沢東はマルクスレーニン主義をベースに“毛哲学”を完成させた。その根幹は「矛盾論」と「実践論」である。簡単に言えば、人民をプロレタリアートとブルジョアジーに区分し、ブルジョアジーから富を取り上げ、農民や労働者などプロレタリアートに配分し、貧困層を豊かにし、社会を平準化することである。
★ブルジョアジーとは、貴族や大企業の経営者、大地主のことだ。問題は小売店の店主や小作農の地主をブルジョアジーと認定するかどうかだ。最終的には毛の鶴の一声で仕分けされた。これはこの問題にとどまらず、毛に批判的な政治家、知識人は、毛の独善的判断で、すべて反革命分子として、追放、抹殺してきた。中国のリベラルな歴史学者は、毛時代を中国歴史上最も暗黒な時代だと指摘している。
★習近平が、毛沢東を国父の座から降ろさないのは、共産党一党独裁体制と毛の絶対的権威者としての存在が、習にとっても好都合だからだろう。今の中国は、毛時代への逆戻りだと識者は言う。習近平は毛沢東を超える存在として、着々と手を打って来た。国家主席の任期は最長２期となっている。しかし、２０１８年３月、憲法を改正し、国家主席の任期制を撤廃した。習主席は自ら辞任しなければ、終生もしくは長期政権になると思われる。
★習政権の７年間を振り返えると、
　　①政治は毛時代に逆戻りしている。　
　　②言論統制と報道規制がいっそう強化されている。
　　③政府による資源配分が強化されている。
　　④国有企業を重視する政策が徹底されている。
　　⑤民営企業への介入と関与が強化されている。
習政権になってから、市場の役割よりも、政府の役割が強化されていることが顕著になった。
★中国型の経済開発モデルとは「共産党指導の下で国有企業が支配的で、民営企業が補完的な市場経済」ということである。①共産党が市場介入の権限と人事権を持つ。いかなることがあっても、共産党指導体制を揺るがすことは許さないということが大前提。　②「国有企業の支配的な立場」という位置づけは、社会主義体制の基本であるため、それを堅持する。③民営企業はあくまでも補完的な存在になる、ということである。
★国有企業も民営企業も経営幹部には必ず共産党員が配属される。そこに腐敗の温床がある。国有企業は、親方日の丸である。車や電機などは民営企業である。しかし、実態は組立産業であり、先進国の下請けに過ぎない。
★２０１３年に誕生した習政権は、腐敗幹部を追放したことで人気を集めた。７年間で２６０万人以上の共産党幹部が追放された。しかし、反腐敗政策は両刃の剣である。共産党幹部の腐敗ぶりが人民に知れわたった結果、逆に共産党への求心力が低下している。腐敗金額は天文学的レベルで拡大している。近年、国家予算の中で治安維持に当てる予算額は軍事予算より多い。
★選挙で選ばれていない習政権は、人民を幸せに出来なければ、長期政権を目指そうとしても、不安定な政権になる可能性が高い。習政権は２０２０年までに貧困を撲滅し、すべての人民が「小康レベルの生活」（そこそこの暮らし向き）に達するよう公約した。２０１９年の１人当たりGDPは１万ドルを超えた。しかし、ジニ係数（貧富の差）は、０．４６５に達しているという。０．３以下なら格差は小さく、社会は安定するが、０．３を超えると社会は混乱する。格差は年々拡大している。
★日本では、閣僚になると所得と資産は、すべて公表しなければならないが、中国では政府の指導者は所得と資産の公表はしない。税務署は富裕層に対する所得と資産を調査することが出来ない。因みに、毛沢東の遺産は預金、印税、書画骨董など８兆円だったそうだ。別荘は６１ヶ所あった。
★共産党高級幹部は、現行の共産党独裁体制を存続させようとしている。経済成長、すなわちパイの拡大が続く間は、この体制を存続させることが出来るが、成長が鈍化しすべての幹部が享受できる分け前がごっそり減るようになれば、共産党への求心力はおのずと低下する。今はその分水嶺に差し掛かっている。
★最近起きた出来事を上げると、①不動産大手恒大の経営危機、②アリババ創業者・ジャック・マー行方不明、③芸能人への課税強化、④２０２１年７～９月期のＧＤＰ４．９％に減速、⑤電力の供給制限で工場の稼働率大幅低下などがある。これらはそれぞれ個別の出来事であるが、政府の規制や締め付けという共通点がある。習政権の焦りが垣間見える。
★ジャック・マー事件は、独禁法違反で家宅捜査を受けたが、政府批判が原因と言われている。GAFAに対し、中国ではアリババなどインターネットサービスの４社をBATH（バイドゥー、アリババ、テンセント、ファーウエイ）と呼んでいる。この分野は、国有企業が参入していない穴場産業である。
★習政権が考えている強国復権の夢は、経済規模と軍事力はもとより、それらを支える技術力を世界一にすることである。「中国製造２０２５」（ハイテクの強化、脱下請け）や「千人計画」（人材リクルート）が考案され、実施されている。中国ウオッチャーは、習政権がいつまで続くかというより、どのような形で終わるかに注目している。その行方次第で中国社会ならびに国際社会に大きなリスクをもたらすからだ。
★米中貿易摩擦のきっかけは、貿易不均衡だった。中国は２００１年WHOに加盟した時は、市場の全面開放を約束したが、いまだに不十分と見られている。トランプが仕掛けた第２ステージは、ファーウエイに象徴される５Gなどハイテク技術の覇権争いである。第３ステージは香港の「一国二制度」や南シナ海を巡る国際秩序問題、新疆ウイグル自治区などの人権問題である。バイデン政権はトランプ政権の様々な政策を見直しているが、中国政策だけはトランプ路線を引き継いでいる。

2021年後半投稿一覧
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10月28日	独裁者・習近平と毛沢東