へ戻る

最近思うこと
    ネアンデルタール人はわれらの祖先」(2023・8・24)
1.ネアンデルタール人は祖先
★文化人類学や考古学に関心のない人でも、ネアンデルタール人の名を知らない人はいないでしょう。ネアンデルタール人は、人類史上、最も知名度の高いスーパーヒーローです。
★ネアンデルタール人は、4万年前に絶滅したというのが、学界の定説でした。ところが、次世代シークエンサーという最先端技術の遺伝子解析によって、われわれの体内にはネアンデルタール人のDNAが受け継がれていることが明らかになりました。つまり、ネアンデルタール人は、われわれの祖先だったのです。
2.ホモ類
★人類は大別すると、「猿人」→「原人」→「旧人」→「新人」に分類されます。「猿人」は700万年前に、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンから分かれた直立二足歩行の人類で、これが人類の起源です。復元図を見ると、素人には猿としか思えません。故に、「猿人」と呼ばれています。
★日本は人生100年時代を迎えました。しかし、考古学上の単位は100万年、10万年、1万年といった万年単位で語られます。100年などは1秒にも満たない一瞬の出来事です。
★「猿人」から「原人」に辿り着くまで、500万年を要しています。この間の人類をホミニン(直立二足歩行、毛のない類人猿、最初の火の使い手、霊長類の一種)といいます。
★「原人」「旧人」「新人」はホモ類といいます。ホモ・エレクトスは、200万年前に誕生した人類で、これがホモ類最初の人類で「原人」と呼ばれています。30万年前に出現したホモ・ハイデルゲンシスは「旧人」といいます。6万年前にアフリカを出た人類が、現生のホモ・サピエンスで「新人」です。かつて地上にはいくつかの人類がいましたが、今はホモ・サピエンスが唯一の人類です。
★60万年前、共通の祖先からネアンデルタール人、デ二ソワ人、ホモ・サピエンスに枝分かれしましたが、40万年前に交雑(異種間の交配)し、数10万年間3種が共存していたことが分かりました。
★お馴染みの北京原人(70万年)やジャワ原人(130万年)はホモ・エレクトス(原人)です。シベリア西部で発見されたデ二ソワ人も原人です。デ二ソワ人は、チベット高原からアジア全域に分布、数万年前まで生存していました。北京原人もジャワ原人もデ二ソワ人の可能性があります。
★「旧人」は20万年〜30万年前にアフリカで誕生、ヨーロッパ各地で活動した化石人類です。代表選手はネアンデルタール人です。5万年前に絶滅したと考えられていましたが、DNA分析から、デ二ソワ人とネアンデルタール人、ホモ・サピエンスは交雑したことが分かりました。つまり、デ二ソワ人とネアンデルタール人は、われわれの祖先です。
★「新人」(ホモ・サピエンス)は、6万年前にアフリカを出て、中東→ヨーロッパ→南アジア→東南アジア→オセアニア→東アジア→パプアニューギニア→南北アメリカへと拡散しました。
★5000年前、中央ユーラシアからヨーロッパ南部のステップ地帯に牧畜主体の「ヤムナヤ文化」が勃興しました。馬と車輪を利用してヨーロッパおよび東西両方向へと拡散しました。ヤムナヤ族は、ヨーロッパの白人と北インド集団の祖先です。現在のウクライナはこの文化の中心地でした。
3.日本人の起源
★日本に最初のホモ・サピエンスが到達したのは、4万年前の旧石器時代です。東南アジアからの北上ルートと中国大陸、朝鮮半島経由の南下ルート、ユーラシアから北回りで北海道に来たシベリアルートがあります。
★1万3000年前に東南アジアから来た人種を「縄文人」といい、3000年前に朝鮮半島から稲作を持って渡来したのが「弥生人」です。日本人は縄文人と弥生人のDNAを受け継いでいます。
★縄文人のDNA比率は、アイヌ人70%、沖縄人30%、本土人10%です。これは稲作の普及と相関があります。北海道は稲作が入りませんでした。沖縄は九州から1000年遅れて稲作が始まりました。本土人も東北に行くほど縄文人の比率が高くなります。
★縄文人と弥生人は見た目が違います。アイヌ人と 琉球人はよく似ています。眉が濃く、彫りの深い顔立ちです。これは離島という地理的条件から弥生人の流入が遅れ、縄文人の要素が色濃く残っているからでしょう。本土人は縄文→弥生→古墳時代を経て、縄文人の要素が薄れ、弥生人のDNAを多く含む現代人になっていったと言われています。
4.アメリカ大陸
★アメリカ大陸は、ホモ・サピエンスが最後に到着した大陸です。アメリカ先住民の祖先は、マンモスなどの大型動物を狙う狩猟採集民で、1万3000年前シベリアとアラスカが繋がっていたベーリング陸橋を渡って、ユーラシアから北回りで渡って来たと考えられてきました。
★ところが、南米チリで発見された人骨は、これより古いことが分かり、アジアからの集団が海沿いのルートで南回りに北米に移動したという説が有力になってきました。
★余談ですが、8月1日から読売朝刊で関野吉晴氏の「グレートジャーニー」が掲載されています。彼は文化人類学の教授ですが、探検家を名乗っています。この旅はホモ・サピエンスの足跡を、南米から逆ルートでアフリカまで人力で辿ったというものです。
★連載は始まったばかりですが、彼は学生の頃、南米アマゾンのいくつかの村で先住民と暮らしたことがあります。彼ら先住民は狩猟採集民族で、木の実や果物、動物の肉を食用にしています。男は弓矢を持って森に分け入り、鳥や鹿や猪、猿を仕留め、村に持ち帰ります。女はそれを捌いて、村民に平等に分け与えます。独自の言語と習慣を守り、自然から得られるものだけに頼って生活しています。必要な時に必要なだけ獲って、みんなと分かち合う生活です。生活様式は6万年前の狩猟採集民時代そのものです。現代社会に、まだこのような種族がいるのか驚きです。
5.むすび
★人類の起源を探る研究は、従来、考古学者や文化人類学者、地質学者が遺跡や遺物から推論
して学説を発表してきました。この方法はバラツキが大きい欠点があります。近年、先端技術の飛躍的な発展により、DNAやゲノム、次世代シークエンサーによって、古人骨や微細な骨片を遺伝子レベルで解析することが出来るようになり、信頼性の高い分析結果が得られるようになってきました。今も発展途上で、これからも新発見が相次ぐことでしょう。
トップへ