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最近思うこと
      「台湾の半世紀」(2024・2・20)  
★私にとって台湾は第2の故郷です。家族と一緒に生活し、子ども達は現地の学校に通いました。滞在中に両親にも来てもらいました。台湾の人たちとは公私にわたり交流しました。中華料理も堪能しました。全島もくまなく旅しました。生まれ育った地元横須賀よりはるかに濃密な体験をしました。
★それだけに「台湾」という文字を新聞やテレビで見かけると、思わず惹きつけられます。「台湾の半世紀」(筑摩書房)を書評で見つけたのも自然の成り行きでした。著者は、元東大教授の若林正丈氏です。★彼は1949年生まれですので、われわれより一回り若い学者です。東大の院生時代台湾に関心を持ち、台湾の政治を生涯の研究テーマにしました。彼が学生の頃は、台湾を研究対象にする学生はいませんでした。彼はそれを学術分野に引き上げ、後年「日本台湾学会」を設立、初代理事長に就任しました。
★彼は私より若い世代なので、体験記は私の駐在期間に重なります。登場人物はほとんど政治家です。物語は蒋経国の死から始まります。経国は父蒋介石の跡を継いで総統になりました。彼の死は私の駐在中に起きたので鮮明に憶えています。経国の時代はまだ戒厳令下にあり、議会は非選の外省人(大陸から来た中国人)で占められていました。大陸反抗を掲げる?政権は、それに反対する勢力を徹底的に取締り、弾圧しました。ターゲットは共産主義者ですが、政治家、学者、経営者、民間人にとどまらず、外国人も例外ではありませんでした。
★それを担ったのが秘密警察です。手口は巧妙かつ執拗で、通称TCIA(台湾CIA)と呼ばれ、恐れられていました。駐在員は電話の盗聴、書類の開封、身辺調査に十分注意するよう「日本人会」から言われたものです。教授も要注意人物としてマークされたと述べています。この時代を台湾の暗黒時代、恐怖時代と言います。
★この専制体制を打破し、民主化への扉を開いたのが、蒋経国の跡を継いだ李登輝です。彼は台湾の民主化を成し遂げた偉大な政治家です。その後総統は、陳水扁、馬英九、蔡英文と代わりました。これらの人物はよく知っています。しかし、その他本書に登場する政治家は、ほとんど知りません。
★私の知人は経営者や管理職が中心です。役所の局長、部長クラスとは多少の面識はありましたが、政治家とは接点はありません。それ故、政治家の目線で見た台湾には、教えられるものがあります。
★台湾を取り巻く情勢は複雑かつ微妙です。本書に「アイデンティティの自己意識」という調査があります。台湾人の自己意識を調べた統計です。あなたは「台湾人」か、「台湾人であり中国人」か、それとも「中国人」か、を問うたものです。直近(2022年)の答えは、「台湾人」63%、「台湾人であり中国人」32%、「中国人」4%です。
★もうひとつ「国家のありよう」を問うた調査によれば「独立」31%、「統一」7%、「現状維持」88%となっています。この2つの統計は、その折々の世界情勢に影響されて、変動しています。台湾が揺れ動いていることが分かります。
★私が駐在していた頃は、台湾独立運動が盛んでした。その急先鋒が邱永漢でした。李登輝も「独立」とは言っていませんが、腹の底は独立派です。著者の若林教授は「中華民国台湾化」という概念を提起しています。これも真意は「台湾人による台湾国家」の設立・承認です。
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